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『この闇と光』を読んでみた

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

感想一発目はこれ。一ヶ月ほど前に読了したこの作品。

 

職場のそばの本屋で、大きなコーナーまで作って売り出されていたこの小説。実は、これを読むまでこの作家さんを知らなかった。きれいな表紙も相まって、何かなと思ったわけです。

 

ストーリーとしては、森の奥に父親とともに囚われて暮らすレイア姫が主人公。囚われの身とはいえ、優しい父と割と優雅な暮らしをしていたのだが、ある日を境に全てが崩壊した…といった感じ。

私はミステリとかSFが好きなのだけど、そこへ来て『大どんでん返し』とか『ミステリファン熱狂』とか、帯に書かれてるわけです。そんなこんなで、これは買いだなと。

以下、ネタバレも含みますのでちょっと下げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論としては、うーん…ネタばらしが早いかなあ、と。前半でぐいぐい引き込まれたのに、中盤のネタばらし以降、あまりその力を感じなくなったというか。

 

ストーリーの中盤で、『レイア姫』の世界は、お父様(だと思っていた男)が作り上げた架空の世界と判明します。しかもレイア姫は、玲という名前の男の子だったこともついでに判明。まあね、事故で目が見えなくなったまま、暗闇の世界で、介護されて過ごしてるんだから、自分のいるところがどんなとこなのか、分からないというのはいいです。父親のふりをしていた男は、日本的な要素をほぼ排除して、さながらおとぎの国のお姫様のように『レイア姫』を育てていた、というので説明をつけていました。

でもなあ、自分が男の子なことって気付かないのかなあ。体の特徴として、忘れちゃならないものがあるわけで。どうしても、そこが気になってしまいます。

 

レイア姫の日課は、お父様による小説の読み聞かせ、または小説の朗読音声をダビングしたテープを聞くこと。小説も、小公女やら嵐が丘やら、とにかくなんていうか、我々の世界からかけ離れたような時代のものばかりです。

私も、最初は現代物のつもりでは読んでませんでした。あらすじ的に、架空のファンタジー世界的な異国の話かなと。直前に読んだのが、米澤穂信の『折れた竜骨』だったってのもあったのかもしれません。ま、かなり早期に、クマの『プゥ』というぬいぐるみが出てきたときには、ん? となりましたけどね。あとは文字の勉強のくだりですね。あれは、結構ピンときた方も多いみたいですね。

 

中盤以降にダレを感じたのは、ネタばらし後の玲には、なんとなく反発を感じてしまったのもあるかもしれません。

元の両親の元へ戻され、視力も手術により回復しますが、すべてが輝いて見えたのは最初のうちだけ。玲は現実に幻滅して心を閉ざしつつ、つまらない毎日を過ごします。しかもこれ、全編を通して玲の目線から語られるので、読者は両親や周囲の人間への侮蔑を延々と聞かされることになります。つ、辛ぇ…。さして仲の良くない友達から「なんで私、結婚できないのかな…」とかどうでもいい話を聞かされてるような気分になるYO…。

 

最後も、玲にとっては救い…になるのかなあ。お父様と思しき相手の居場所を突き止め、凸っていくわけですが。こうしてまた『お父様』と再開した玲が、レイア姫としての世界を取り戻すのかどうかは描かれていませんが、そんな予感をぷんぷんさせつつ物語は幕を閉じます。

 

ここへ来て、玲が、レイア姫の物語を小説として書いたことが分かります。こうなると、もはやこれまでの話が嘘が真か、よく分からなくなってしまいます。トリックとしては大味だから、すべて玲の妄想、ととることもできます。そうであって欲しいような、そうでないような…。

 

今の世の中、生きててムカついたり嫌だったりすることなんてたくさんあるのですが、私はこんな風に夢の中に逃げ込むようには生きたくないなあと思うんです。だからか、あんまりハッピーエンドって感じもしなかったのですが。ともあれ、後味が悪すぎることもなく、意外と爽やかな終わりだったなという印象です。

服部まゆみさんという作家さんの小説は、他にもいくつか出版されているようなので、見つけたら読んでみようかなと思います。